(「新しいチャレンジ!」から続きます)
澤山乃莉子さんの著書の編集をまかされた際にいただいた要望は「たくさんのメッセージを伝えると同時に、見た目はあくまで美しいコーヒーテーブルブック(リビングのコーヒーテーブルに置いてゲストに眺めてもらうような、きれいなビジュアルのアートブック)にしたい」というものでした。
打ち合わせの際に見せてもらったのは、澤山さんが考えたコンテンツとサンプル原稿。伝えたいことが実に多いので、情熱が勝りすぎて筆が走り、少し散らかり気味なところはありましたが、内容はもちろん素晴らしい。キュレーションホテル第1号である「桃乃八庵」の、きれいに整えられた完成後のスタイリング写真も揃っていましたが、美しいインテリアを紹介するだけの教科書的な本ではないので、何かアクセントを加える必要がありました。
また、内容が立派なだけに、あまりにも「どうだ!」という感じが鼻についてしまうと、逆に魅力が一部しか伝わらなくてもったいないのでは、と思いました。私の役割は、内容を整理して筋道や強弱をつけ、気持ちよく読みやすい構成と編集に徹すること。そして課題は、
・幅広い読者層へ向けて、どんなヴォイス(文体)で語りかけるといいのか。
・ワクワクと手にとって、飽きることなく楽しくページをめくってもらうにはどうしたらいいか。
・単なるインテリア実例紹介の本ではないので、臨場感や空気感が大切。その場にいるような印象を与えるにはどうしたらいいか。
・ビジョンの部分をどう堅苦しくならず、また暑苦しくならずに伝えるか。
加えて、できたら真面目一本やりではなく、澤山さんのもつ強さや暖かさ、ユーモア感覚や遊び心も感じとれるような一冊にしたい、とも思いました。
コーヒーテーブルブックとしてのビジュアルは、「桃乃八庵」の全体像を見せるメイン部分を写真集的な作りにすることで実現しました。「端正な全体ショットに情緒的なクローズアップの断片をランダムにミックスして、ゆるやかな時の流れを軸に展開する」という方法論の立役者は、尊敬する木村デザイン事務所のアートディレクター木村裕治さん。編集意図を一度説明すると、あっという間にたたき台のビジュアルを作ってくださり、それを持って、木村事務所の宇佐美さんと一緒に「桃乃八庵」を訪問。手探りの提案に歓声をあげて喜んでくださった澤山さんを見て、大筋はこれで大丈夫だと胸をなでおろしたのが1月中旬のことでした。
もちろん、制作の過程にはその後、たくさんの試行錯誤があったのですが……。澤山さんは、編集サイドの提案をいつも快く聞いてくださり、本づくりを一緒に進めやすい、情熱あふれる素晴らしい著者でした。前半の写真集部分のゆったりとしたおおらかさ、後半の解説部分の熱のこもった理知的な議論は、どちらも澤山さんご自身の姿。うまく伝えられているといいなぁ、と思っています。
このお話、もう少し続けて、次の記事では具体的にどんなことにトライしたのか書きたいと思います。
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