(「壮大なビジョンのコーヒーテーブルブック」から続きます)
澤山乃莉子さんの著書『THE CURATION HOTEL』の写真集部分のクローズアップのシーンは、カメラマン2名が1泊2日で撮りおろしたもの。同じ日に雪景色と熱海桜を見られた、2月初めの撮影でした。
「桃乃八庵」で過ごす一日のシーンの印象的な断片、たとえば朝の光の差す窓や庭に光る朝露、愛犬モモちゃんが昼寝をしている姿や夕方の長く伸びたオブジェの影など、美しいと思ったシーンをどんどん切り取ってほしいと頼み、2人ともモチベーション高く撮りまくりの2日間でした(そのときの様子はこちらの記事にも)。
使う写真を絞り込みながら、澤山さんには同時進行で、作り直した構成に合わせて「キュレーションホテルとは何か?」「桃乃八庵ができるまで 紆余曲折のストーリー」など、この写真集パートに挿入するテーマエッセイを書き下ろしていただきました。そのテキストを、ストーリーラインに沿って並べていきます。
試行錯誤10回以上におよぶ構成検討中、アートディレクションをお願いした木村さんの事務所を訪ねるたびに、前回の打ち合わせを踏まえて少しずつアップデートされたプリントアウトが用意されていました。それを床に並べてあちこち入れ替えながら、構成を練っていくわけです。順番だけならPCの画面上で確認することもできるのですが、手にとって読む本のページ展開は、やはり紙に出力して、全体を眺めるのがいちばんしっくりきます。
この写真はそのときのワンシーン。「エディトリアルデザイナーあるあるの風景」と木村さんは笑っていましたが、大ベテランのアートディレクター自ら、床に膝をついた体勢で一心にノンブルを書き込んでいる情景は、ちょっと胸が熱くなる感じでした。
写真集パートが一段落したところで、今度は識者の方々との対談などを収録する後半の解説パートの編集。構成検討にはそれこそ紆余曲折を経て相当な時間がかかりましたが、桜満開の頃にようやく最終的な全体像ができて、さらに微調整を重ね、5月末に校了となりました。
そして出来上がったこの一冊。届いた見本を手に取った第一印象は、ハードカバーで220p超のボリュームの割に、持った印象は意外と軽やか、ということ。障子の桟のデザインを活かした見返しから始まるオープニング、建物内を行ったり来たりしながら流れていく一日の時間、そしてエンディングにいたるまで、シーンの積み重ねで空気感や手触り感を伝えていく、という狙いが、読んでくれた方にちゃんと届けられているとよいのですが。そしてもちろん、古い建物の改築、世界水準のインテリア、伝統工芸とアートの共演、熱海という土地の魅力、キュレーションホテルの可能性など、多彩なテーマを楽しめる澤山さん渾身のエッセイと解説も、じっくり読んでいただけたらうれしいです。
長い制作期間、いろいろ悩むことも多かったですが、この本の編集に携わったことは当初の直感どおり、新しいチャレンジと貴重な経験がたくさんの素晴らしい機会となりました。この役割を与えていただいたことに、心から感謝します。
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